
2013年3月31日に、毎年買うのが恒例の『NHKラジオテキスト・ことば力アップ』(2013NHK出版)を買った。
今年も、NHKアナウンサーが総力をあげて自ら目ざす朗読と読み聞かせの理論を展開している。今年は、朗読が三分の一、読み聞かせが三分の一と、本来のアナウンスの分野よりも比重が重くなっている。朗読や読み聞かせは、むしろアナウンサーの専門外の仕事だと思う。
実際に、朗読や読み聞かせよりも、アナウンス関係の解説のほうが内容が充実しているのだ。とはいうものの、良かれ悪しかれ、現代日本のNHKアナウンサーの朗読理論の水準がわかる。いちばん知りたいのは、朗読という文学作品の表現を、本来のアナウンスとのちがいをどのように理論づけるのかということだ。
まず、最初の印象は、「語り手」ということにますますこだわるようになったことだ。これはいい傾向だ。だが、どう読むかというとき、「話すように」「しゃべるように」というのは問題だ。「語り手」は、作中の聞き手に話しているのだ。作品はそのフィクションの世界で生きている。それを現実の聞き手に向かって、話したり、しゃべったりしたら、せっかく「語り手」を持ち出した意味がない。
もう一つ、残念なのは、さまざまな作品が取り上げられているが、ただ引用されているだけである。その下に、ぱらぱらと解説が書かれているが、一般的な読みの注意どまりで、1つ1つの言葉の読み方の参考にはならない。要するに、朗読のために記号をつけるという作業はまったくはじまっていないのだ。
というわけで、わたしは最初の作品である夏目漱石「文鳥」の引用部分に「記号づけ」 をしてみた。それを公開するので、興味のあるかたは、記号を見ながら実際に作品を朗読してみてほしい。「記号づけ」の記号の読み方は、拙著『朗読の教科書』第5章を参照ねがう。小学生でも分かるような単純なものである。