わたしは表現よみでは「語り口」ということばで作品の文体について論じている。その基本となる展開が文章にもある。
たとえば絵画の色の塗り方にはいろいろある。線を使ったり、点で描いたり、ぼかしたりといったタッチの種類である。これとおなじような基準が文章にもないかと考えたとき、わたしは澤田昭夫『論文のレトリック』(講談社学術文庫604)の「文章展開の4種類」に思い当たった。説明、論証、描写、物語の4つである。澤田氏はこれを論文の表現手法と考えている。もともとアリストテレスの修辞学からの応用だそうだ。わたしはこれを文章全般の展開技術に発展させた。
学校の「作文」の練習は
物語から始まる。つまり、できごとを時間順に書いてみる。「それから……、それから……」という展開である。それではすじばかりになってしまう。次に、書くべきことは場面である。重要な場面では時間を止めて空間を描く。それが
描写である。視覚的な想像を可能にする表現である。以上、2つは文学文に多用される。というよりも、文学的な文章手法である。
理論的な手法は説明と論証である。文章の中で定義やコメントが必要なことがある。モノ・コトやできごとの意味など簡潔に書くのが
説明である。読みものとして書かれた時代小説などは、物語、描写、説明の三つで成り立っている。できごとの意味を考えたり、内容を掘り下げるためには
論証が必要になる。
論証の必要性は理論文の展開に限られない。小説もある意味ではテーマという仮説に基づいた論証だといえる。たとえば、「人間は孤独なものである。」というテーマがある。それについて、書かれたストーリーが論証なのだ。あるいは、「海は美しかった。」につづく描写も論証の役割を果たすことがある。
だが、論証の展開の基本は「○○は……である。なぜなら……からだ(理由)。というのは……からだ(論拠)」という三段構造である。これを支えるために、さまざまな論理的な接続語を駆使して文章が展開される。それを総合して論証の展開とよぶのである。(「
接続語の論理的機能一覧」参照)
以上、簡潔に解説したが、より詳しくはネット著作
『思考力を高める文章指導法』を参照してほしい。