これはシリーズで、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(使用テキストは青空文庫)の表現よみのために少しずつ記号づけをしていくものです。まず原文をよんで、それから記号づけされた文をよんでください。記号づけの記号の基本は
第2回を参照してください。
●原文
ジョバンニが勢(いきおい)よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫(むらさき)いろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆(ひおお)いが下りたままになっていました。
「お母(っか)さん。いま帰ったよ。工合(ぐあい)悪くなかったの。」ジョバンニは靴をぬぎながら云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日は涼(すず)しくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。」
ジョバンニは玄関(げんかん)を上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口の室(へや)に白い巾(きれ)を被(かぶ)って寝(やす)んでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。」
「ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。」
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
「ああ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。」
「来なかったろうかねえ。」
「ぼく行ってとって来よう。」
「あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」(3 家)
●記号づけ
ジョバンニが
勢(いきおい)よく帰って来たのは、ある裏町の
小さな家でした。その
^三つならんだ入口の
^一番左側には
/空箱に
^紫(むらさき)いろのケールやアスパラガスが植えてあって
/小さな二つの窓には
/日覆(ひおお)いが下りたままに
/なっていました。
「お母(っか)さん。いま帰った
よ。工合(ぐあい)悪くなかった
の。」ジョバンニは靴をぬぎながら
/云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかった
ろう。今日は涼(すず)しくて
ね。わたしはずうっと
/工合がいい
よ。」
ジョバンニは玄関(げんかん)を上って行きますと
/ジョバンニのお母さんが
/すぐ入口の室(へや)に
/白い巾(きれ)を被(かぶ)って
/寝(やす)んでいたのでした。ジョバンニは窓を
/あけました。
「お母さん。今日は
/角砂糖を買ってきた
よ。牛乳に入れてあげ
ようと思って。」
「ああ、お前さきに
/おあが
り。あたしはまだ
/ほしく
ないんだから。」
「お母さん。
姉さんはいつ帰った
の。」
「ああ
/三時ころ帰った
よ。みんなそこらをしてくれて
ね。」
「お母さんの牛乳は
/来てい
ないんだろうか。」
「来なかったろうか
ねえ。」
「ぼく
/行って
/とって来
よう。」
「ああ
/あたしはゆっくりでいいんだから
/お前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで
何かこしらえて
/そこへ置いて行っ
たよ。」
「ではぼく
/たべ
よう。」(3 家)
太字のアクセントは高アクセントではなく、強アクセント、イントネーションがあがる二段目は緑字にしました。渡辺知明の「銀河鉄道の夜」のよみは「
別館【表現よみ作品集】」にあります。