朗読の発声法というと「腹式呼吸」というのがきまりきったように言われる。しかし、あくまで呼吸は呼吸なのであり、呼吸は発声そのものではない。また、声楽の発声をそのまま朗読にもちこんで訓練をしている人もいるが、歌と読みとは声の使い方がちがうのである。
最近、石塚雄康『いき・こえ・ことばのイメージ―日本語のための呼吸・発声・発音法』(初版1992/2版1998青雲書房)で、次のような呼吸の要素を知った。
吸息 → 保息 → 呼息
一般に呼吸といったら、吐くと吸うとしか考えられていない。しかし、ここに「保息」を加えると、朗読のための発声というものが見えてくる。ちなみに、それぞれについて、野口三千三の解説が紹介されている。53ページ
吸息……集合であり、準備であり、貯蓄である
保息……吸息が終わって、息が保たれている間(保息)は結合し、化合し、集中統一され方向づけられる。保息のもつ重要な意味はみすごされやすいが、微妙な点において最も注意しなければならない問題が多い。
呼息……解放し、行動し、完成する。くつろぎにも緊張にも大切であることは注目すべきところであって、その具体的なあり方の多様性は簡単に究わめつくすことのできるものではない。
わたしの考えでは、朗読の発声は保息から呼息への状態である。歌の場合は比較的長く音をのばすのであるが、よみでは細かく音節が区切られる。そのときには、保息の状態で少しずつ呼息するのである。保息の息は冷たい手にあたたかい息を吹きかけるような発声である。そうして、文末までいったときに残りの息を吐ききるのである。声でいうなら「ハーーーーーッ」「ホーーーーーッ」といったイメージである。
腹式呼吸で息を吐く練習は発声につながるものではない。むしろ、保息の状態における息の吐き方こそが、強弱や緩急を十分にコントロールした声の訓練になるだろう。