●丸谷才一・井上ひさし=豊かな言語生活
丸谷は「人間は言葉によって思考を精密化する」という。そうして、昭和天皇の発言について、一方通行であったということから「議論が苦手な日本人」という話題になる。
わたしがおもしろかったのは、井上が例にあげた「ロバート議事規則」というものだった。アメリカの十三州が独立のための会議を開いたとき、ジェファーソンのつくった会議の規則が不備なので、工兵将校ロバートという人が考えた議論のルールだそうだ。話しの中から要点を取り出すと次の5項目になる。ディベートの訓練以前に知っておく話し合いの原則である。
(1)議長にはスポーツの審判のような権限を持たせる。
(2)人の発言が終わらない内は他の人は何も言ってはいけない。
(3)とんでもない発言は、賛同者がなければ議題にしない。
(4)沈黙は同意とみなす。
(5)議長は反対意見をできるだけ多く取り上げる。
そうして、議論のできるような言葉の力をつけるのは教育の問題となる。井上は丸谷の本『ゴシップ的日本語論』の「理数系も実は言葉の力の問題だ」に賛同して、「義務教育は、理科も算数も家庭科も全部言葉の教育だ」と発言する。
この対談の結論は「言葉の力」という特集を象徴するものとなった。
文藝春秋・特別号『言葉の力 生かそう日本語の底力』より